大阪地方裁判所 昭和36年(ワ)1046号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決要旨〕一、綿スフ織物調整規則の登録とは、事業者が織機と制限織物の製造の用に供しうるという事実行為をなすための要件としての効果を有する対物的行政処分であつて、その登録をうけた事業者はそのような行政処分上の地位を取得し、且つその地位は登録織物の譲渡により移転するが、実用新案の登録の如く、織物登録権なる無体財産権を発生せしめるものではない。
二、いわゆる織物登録権は権利ではないから、民事訴訟法第五四九条にいう「譲渡若くは引渡を妨ぐる権利」にあたらない。
〔事実と争点〕一、被告三益織物株式会社は訴外吉川産業株式会社に対し昭和三六年二月二四日左記織機登録権の仮差押をした。
綿スフ織機登録権
(一)登録番号 自三五〇、七七〇号
至三五〇、七八四号
型 式 東海式
開口装置種類及び枚数 タペツト2
替装置側別及び数 ― ―
幅 八〇吋
台 数 一五台
(二)登録番号 自三五〇、七九〇号
至三五〇、八〇一号
型 式 東海式
開口装置種類及び枚数 タペツト2
替装置側別及び数 ― ―
幅 五二吋
台 数 一二台
(三)登録番号 自三五〇、七八五号
至三五〇、七八七号
型 式 中村式改造
開口装置種類及び枚数 タペツト2
替装置側別及び数 ― ―
台 数 三台
二、ところが、原告奈良吉川産業株式会社は右訴外会社より、右一、記載織機三〇台を含むその他機械器具と奈良市肘塚町第一三八番地の一宅地一、二六七坪二合四勺外の不動産を合した工場財団を、昭和三五年三月一日買受け、その移転登記を了した。
三、そこで、原告は右一、の仮差押執行に対し、次の理由により許さるべきでないと主張した。
(1) 織機と登録は不可分のもので、織機と登録を各別に譲渡できるものでなく、織機を譲受けたものでなければ、登録をうけることはできない。
(2) 織機登録権は、織機が綿スフ織物調整規則(昭和三五年九月三〇日通商産業省令第百二号)により制限された行政上の取締行為による反射的利益であつて、この利益は織機と不可分的一体をなしているから、右一、記載織機が原告の所有である以上、右仮差押執行は原告の右所有権に対抗できない。
四、被告は、右一の仮差押の事実のみ認め、その余の事実を否認し、織機登録権は無体財産権である、と述べた。
〔判決理由〕右三記載の点よりみると、原告は、織機登録権は権利でなく、利益であつて、これを差押えることができないのにかかわらず、本件仮差押執行にはこれを差押えた違法があるから、その取消を求める執行方法に関する異議を主張するのではないかとの疑いが存する。けれども、訴状の記載及び弁論の全趣旨よりみれば、本件訴は、織機登録権は織機が綿スフ織物調整規則により制限されることによつて生ずる反射的利益であつて、この利益は織機と不可分的一体をなしているから、右一、記載織機が原告の所有である以上、原告は右利益を享受しうる地位にあるが、右利益が本件仮差押執行により侵害されているから、その排除を求める旨の第三者異議の訴であると解するのを相当とする。
ところで、民事訴訟法第五四九条に「譲渡若は引渡を妨ぐる権利」とあるは純然たる権利の外に利益をも含むものであるかは議論のあるところであるが、権利のみを指すと解する。そうだとすると、原告の主張は利益と主張するものであるから、主張自体理由がないものというべきである。
仮に、本訴が織機登録権は織機と不可分的一体をなす権利であつて、原告が前記一、記載織機を所有している以上、その登録権も原告に帰属するものであり、これが本件仮差押執行により侵害されているので、その排除を求める趣旨の第三者異議の訴であるとしても、次に述べるとおり、本訴には理由がない。
登録とは一定の法律事実又は法律関係を行政庁等に備えつける特定の帳簿に記載し、これ等の事実又は関係の存在を公に表示するとか、公に証明することを目的とする公証行為であり、その直接の効果はその表示又は証した事実が公の証拠力を生ずることにある。しかし登録にはその外、権利行使の要件(選挙人名簿の登録)、権利発生の要件(実用新案等の登録)、権利得喪を第三者に対抗する要件(自動車の登録)、一定の営業をなすための要件(医師の登録)、或は一定行為を行うための要件(船舶の登録)等の特殊な効果が伴つていることが多く、後二者は許可行為に近い性質を有するものである。中小企業団体の組織に関する法律第一条、第五七条、第一七条等によれば、中小企業者等が公正な経済活動の機会を確保し、その経営の安定等を図るため、中小企業者の競争が正常の程度を超えて行われるため、その事業活動に関する取引の円滑な運行が阻害され、その相当部分の経営が著しく不安定となつており、又なるおそれがある等の場合に、生産物を生産する設備の制限等をなしうることが認められ、その設備の制限のため綿スフ織物調整規則(昭和三五年九月三〇日号外通商産業省令第百二号)が制定されている。しかして同規則第二条に「事業者は、制限織物の製造の用に供すべき織機として通商産業大臣の登録を受けた織機(以下「登録織機」という)以外の織機を制限織物の用に供してはならない。ただし第六条第二項の登録申請者の提出に係る織機については登録又は登録の拒否処分あるまでの期間は、この限りでない」とか、第九条に「登録織機を譲受け、または借り受けてこれを制限織物の製造の用に供する者(事業者の事業の全部を譲り受けた者を除く)は、その織機について第二条の登録を受けた事業者の地位を承継する」とある等より見れば、同規則の登録とは、事業者が織機と制限織物の製造の用に供しうるという事実行為をなすための要件としての効果を有する対物的行政処分であつて、その登録を受けた事業者はそのような行政処分上の地位を取得し、且つその地位は登録織機の譲渡により移転するが、実用新案の登録の如く、織機登録権なる無体財産権を発生せしめるものではない。もつとも、証人<省略>は「登録織機とは別に織機登録権のみが一般に売買されている」旨供述するが、証人<省略>の証言によれば、「事業者が登録織機を廃棄し又は滅失したときは、同規則第一一条によりその旨通商産業大臣に届出することを要するが、事業者がその届出に係る織機にかえ新に設置した織機について従前の織機の登録の区分の登録をうけることができる旨同規則第六条第二項に規定してあるので、登録織機の売買に当り、譲受人が右第六条第二項の規定により新織機につき従前の登録をうけた後、旧織機自体の所有権を抛棄するとか、あるいはそれを無償で譲渡人に更に譲渡する条件を付するため、譲受人は旧織機を持ち帰らない結果、あたかも登録織機とは別に、織機登録権と一般に指称される。右認定の意味における登録即ち行政上の地位が譲渡された如き形をとるものである」ことが推認される。又前示認定のとおり右登録は許可行為に近い性質を有するところから、その登録を受けた者は一定の行為をなすにつき、即ち本件について見れば、事業者が織機を制限織物の製造の用に供するにつき独占的地位を取得することがあるが、これは登録とは別個の登録に伴う反射的事実的利益であつて、権利とはいえないことは勿論である。本件仮差押執行に係る織機登録権が、前示認定の行政上の地位を指すものであれ、又右意味における事実上の利益を指すものであれ、権利でないことは明かであるので、その帰属を主張して本件仮差押執行の排除を求める請求には理由がない。
なお、附言すれば、原告は織機登録権なる権利存在せず、したがつてこれを差押できないにもかかわらず、仮差押された違法を理由に執行方法の異議を申立てて、その救済を求むべきである。(大下倉保四朗)